8月末日、仕事の量と質が凄まじく私のストレス指数は上がりまくっていた。
金融機関勤めなのでコンプラ上詳しい説明は出来ないのだが、例えるならこんな感じ。
無理無理無理無理無理
無理が過ぎて心の声が幻聴として聞こえてくる......
...タイ
.......
...ネ...シタイ......
.......
オヒルネシタイ
!!!!!お昼寝したい!!!!!
私はお昼寝が大好きだ。
夜10時間しっかり寝たとしてもお昼寝したいし、ディズニーランドに行ったとしてもアトラクションに並びながら仮眠するし、旅行先でもガンガン寝る。時差とかなくても寝る。だから出来ることなら毎日お昼寝をさせて欲しい。
別にサボって寝ようという訳ではない。昼休憩の1時間中5分で昼食を済ませ残りの55分でお昼寝をしたいだけなのだ。
「普通に寝ればいいじゃん」
とマジレスしたそこのお前。馬鹿野郎!この大馬鹿野郎!!いい年した社会人がしっかりしたお昼寝するのは本当に難しいんだからな!!!
机に突っ伏して寝るとか、悪いけどそんなん昼寝とは呼べない。
私は誰の目も気にしないでのびのびゴローリなお昼寝を目指してんだ。二度と舐めた事言わないで欲しい。
お昼寝、なめんなよ。
少し熱が入ってしまった。
普通の大人ならお昼寝をしない日々に慣れてくるのかもしれないが、こちとら生粋のシエスター(昼寝人)である。今の部署へ異動してくる前、本社ビルで「ぬらりひょん事件」を起こしてなお昼寝をやめないプロとして矜恃がある。
まず総務部から自社ビルの図面を取り寄せ、図面に印をつけためぼしい空間を実踏していく。が、どこも鍵がかかっていたり、会議室として利用されていたりなどしてお昼寝が出来る場所が中々見つからない。
贅沢な条件は一つも出してない。東京の家賃相場を知らないボンビーガールの様なワガママなど言っていない。昼休憩で横になってお昼寝をしたい。ただそれだけなのだ。
私の、私だけのお昼寝出来る場所......人の目に付かず、のびのびシエスタをキめられるサンクチュアリ......
数日間かけて昼休みを使い1階から31階まで徘徊したが納得のいくスペースは見つからず、絶望しながら自分の部署の入っているフロアの図面を改めて見返した見た時に、一箇所まだちゃんと見てない場所がある事に気がついた。
男子トイレと女子トイレの間に空間がある。
最初に見た時は掃除用具を収納するスペースかなんかだと思ったが、それにしてはちょっと広い。図面をよくよく見てみると、部屋があることを示す表記は無いがドアがあるかのような表記がうっっっすらと書かれている。
こんなとこにドアなんてあったか?毎日このフロアのトイレ使ってるのに気付かないなんてことある??認知歪んでた???
そう思いながら半信半疑でトイレの狭間にあるその謎空間のあたりにいくと
あった
ドアというより壁に近い、存在感が限りなくゼロのドアがそこにあった。
一年弱このフロアのトイレを使い続けてたのにこのドアを視認したのはこの時が初めてだった。え?これゲームによくある実績解除しないと先に進めないドアなの??いまトロフィー獲得した感じ???これ現実????
人通りが然程ない時間帯だったため意を決してドアノブに手をかける。鍵が開いている。奇跡だ。私は無神論者だがこの時ばかりは神に感謝をした。見てますか?お昼寝の神様。どうか、私に、力を......
やったーーーーーーーーーーーーーー!!!
お昼寝出来るじゃーーーーーーーーーん!!!
努力が報われた瞬間である。喜びの雄叫びをあげたいところだが壁一枚向こうはトイレで誰が居るかわからないのでサイレントで喜びを一人表現しまくる。
もう可愛い動きとか全く出来ない人間なので、マリオのパックンの様な動きになってしまった。
大量の食料と毛布が入った段ボールが積まれてる事から災害時用の備蓄庫である事がうかがえる。非常時に備えた場所だから鍵が空いてるのかと納得しつつ、そんな大切な場所が図面上ほぼ記載されてないってどうなの?とも思ったが一度置いておこう。もうそんな事はどうでもいい。オールオッケー。いま、ここに、お昼寝出来るスペースがある。その事実だけが私にとっての全てなのだオーライ。
急いで自席に戻りPCで社則を見返したが災害時用備蓄庫で寝ることは禁じられていなかった。そもそも成人済の社会人が備蓄庫でお昼寝をする事を想定していないからわざわざ書き出してないだけな気はしないでもない。そもそもモラル的にどうなのか......
少しばかり気が引けたが、こちとら毎日ストレスでメンタルが被災してるのでこれは正規の利用にあたると自分の中で結論付けた。これもお昼寝の神の思し召しということで、ね?
大量にある段ボールが死角を作ることも出来る上に、換気扇と空調も動いている。端に寄せられていた空の潰された段ボールを敷物にして“陣地”を作りその上でゴロンと仰向けになる。
.......これを読んでいるそこの君は、出来るだろうか?職場で寝っ転がりながらおにぎりを食べる事が。
私はできる。横になって昆布おにぎりを食べられちゃう。行儀悪いねでも行儀悪いことって楽しいんだよ。
いいだろう!!!!!羨ましいだろ!!!!!これが不自由から生まれた自由の形だ!!!!!!!!!!笑いたければ笑え!!!!!!!!!!私は休憩中椅子に座ってる皆を哀れんでいる!!!!!!!!!!!
興奮し過ぎて語気が荒くなってしまったが、かくして私はお昼寝スペースを手に入れたのだ。
しかし一つ問題が発生した。
めちゃくちゃ暗いのである。
薄暗いとかいうレベルではない。漆黒。5センチ前にかざした自分の手が見えないくらい暗い。リアル一寸先は闇。
↑(明かりなしで撮った写真)
照明器具は付いているのだが、これをつけたことによりコントロールルームに照明のオンオフの通知が行く可能性がある事を考えると使用は避けたい。スマホのライト機能を使ってみたものの、めちゃくちゃバッテリーを食う。
↑(ライト機能を使って撮った写真)
仕方ないので懐中電灯でも買うかとAmazonのアプリを開いたその瞬間、閃いてしまった。
暗さ利用してプラネタリウムやりたくない???????????
検索すると家庭用のプラネタリウムが数千円で売られていたので迷わずワンタッチ購入した。
この暗い六畳程度の倉庫が、星降るお昼寝サンクチュアリになる。想像したら最高過ぎて鳥肌が立ち、その日はワクワクし過ぎて中々寝付けなかった(もちろん夜ではなくお昼寝の話である)。
Amazonは、届くのが早い。
思い付いた次の日にプラネタリウムは届いた。ありがとう現代社会。ありがとう佐川。
1秒でも早く使いたかったが、ここで早まって仕事の手を抜くシエスターは二流なので真面目に業務をこなす。もう25歳だしね、うん。もう25歳か......
正気に戻ったら負けなので、お昼休みになった瞬間プラネタリウムを小脇に抱え音速でフロアを出てトイレに行くと見せかけてフェイントかけつつお昼寝スペースへと滑り込む。
ちょっと震える手でプラネタリウムの電源をつけると突然デカめの声で
「Bluetooth モード !」と喋り出したので本気でビビった。
咄嗟に「バッ!ちょ、バレるだろ(小声)」とプラネタリウムに話しかけてしまい、使い魔が勝手に学校について来た主人公みたいになってしまった。
説明書をちゃんと読まず捨てたので知らなかったのだが、このプラネタリウムは音楽も流せるらしい。すげぇ。ドラえもんの道具かよ。
暗闇の中手探りで星空モードのスイッチを押すととんでもなかった。
凄くない??????????????
お昼寝する場所を探していただけなのに、とんでもないところに着地したなと思いつつ寝っ転がると、満点の星空が降り注ぐもんだから笑いがこみ上げてしまった。
しかも付属のリモコンで色んな色に変えられる機能付き。感動して沢山写真を撮ったら普段はTwitterのスクショばかりのカメラロールもチームラボみたいになった。
毎日代わり映えのない日々を送っていた一介のOLが星空の下、横になりながらおにぎりを食べてそのままお昼寝をしちゃうって凄くない???
そのままAirPodsでKIRINJIのエイリアンズを聞いたら開放感と雰囲気の良さが凄くて薄ら涙が溢れてきた。これ何泣き???何の涙なんだ??
自分でもよくわからないが、この日、倉庫で段ボールの上で寝っ転がりながら星空を見て泣いているOLがその日、誰にも知られる事なく、静かに爆誕したのは確かだ。
今日も明日も明後日も、私はこの星降るお昼寝スペースと共にある。これを読むそこの君にも、幸福なお昼寝が在らんことを。
おやすみなさい。