韓国でコルギを受けた話

唐突だが、みんなは韓国に行ったことはあるだろうか?

 

私はある。卒業旅行と題し韓国へ地元の友人と行った時の話だ。

 

 

 

友人1  M

葛飾区在住の心優しいキチ◯イ。特に韓国が好きとかではなく、私と友人2Aが好きなためついてきた奴。悟りを開いていて基本欲が無く旅行中も「なんでもいい」としか言わない。

 

 

友人2  A

生粋の足立区民。常識的なキ◯ガイ。韓国が好きと言うよりも美容と思い出作りのために今回の旅行を企画した。

 

私 黒田なな

荒川越えたらスラム街でお馴染みの足立区に住む文化人。

“キチガ◯と海外旅行に行くとどうなるのか”という知的好奇心と“パスポートの余白を埋めたい”という理由でこの旅行に参加した。

 

 

 

このメンバーで韓国に行き、楽しい時間を過ごしたのだが、唯一許すことの出来ない出来事があった。

 

 

 

コルギである

 

 

 

【コルギとは?】

コルギ(骨気)とは、美容大国韓国で生まれた民間療法。 通常のマッサージと異なり、骨を圧を加えて皮膚と骨の間にある血管やリンパ管を刺激して血流をアップさせる施術の事である。

 

 

 

スラム街で暮していても一応華の女子大生。美容への興味は尽きない。

 

「なんだかよくわからんがすごそうだからやろうぜ!せっかくだし!」

 

という非常に軽いノリで我々はコルギに挑んだのだ。

 

 

 

それが間違いとも知らずに。

 

 

 

コルギの予約を取った後、我々は施術までの時間にお粥を食べに行った。

 

 

韓国のお粥は、美味しい。マジ美味い。

 

 

私はアワビ粥を注文したのだが、優しく温かく海の旨味が広がるその旨さにひたすら感動した。

甘みと磯の香り引き立つまろやかな美味しさにホゥ、とため息をつきながら顔を上げると友人MとAは疎開先で久々に米を口にした戦中の子供の様にひたすら粥を貪り食っていた。ウケる。

 

 

そんなこんなで素敵なお粥を満喫しお会計をしていた際、日本語が上手な店長さんが気さくに話しかけてきてくれた。

 

「コのアト、ドコいくノー?」

 

この何気ない質問に、

「コルギいくんですよ〜」

と答えたところ、優しい表情だった店長さんの顔が見る見る険しいものになった。

 

『私が無知なだけで“コルギ”って差別的意味合いあったっけ???うっかり地雷を踏み抜いた???』

 

と私がアワアワしていると、店長さんが一言。

 

「コルギ、それは恐ろしい身技。」

 

と信じられないくらい流暢な日本語で語り出した。

 

なんでもコルギは物凄く痛いらしく、観光客が泣いたり痣が出来たりして韓国でも問題になっているらしい。

 

「韓国人は絶対にコルギやらない。行かない方が良いよ、マジ。」

 

と流暢に、語尾に“マジ”まで付けてギャルの様に諭してきた店長さんの気迫に私は固まってしまったのだが、後ろで聞いてた友人Mが

 

「おもしろそーじゃん?」

 

と言い放った。

 

『なんだコイツ、逆境に強気とかジャンプの主人公かよ。』

と思いつつも、私も逆に気になってしまい、ビジネスカタコトをやめてまで忠告してくれた店長さんには些か申し訳ないがコルギを中止しない事が決定した。

 

 

 

我々が向かったコルギ屋さんは日本語にも対応しているとても雰囲気の良いお店で、待合室の椅子で猫が昼寝をしているというなんとも和やかな場所であった。

 

すっかり気を緩めた私は『店長さんが言ってたのは悪徳コルギ屋の事で、ここは大丈夫だろう』と安心し、意気揚々とコルギのコースを決めていった。

 

 

 

コルギは、安くない。

 

 

 

フルコースを頼んだらなんだかんだで1万円位になってしまったが、顔が小さくなるなら安いもんである。

 

エラを1ミリでも細くしたい私はなんの迷いもなく一万円分のウォンを出し、フィッティングルームでウンコ色の施術着に着替えてスタンバイをした。

 

 

 

仰向けになって寝ていると

「準備ダイジョウブカー?」

とタメ語が聞こえて来た。

 

こちらが答えるよりも早くカーテンが開くと、そこには温厚そうな顔のおばあちゃんに“グラッパ刃牙”の腕が付いた生き物が立っていた。

 

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?????

 

 

仰向けのまま、横目でよく見てみると、おばあちゃんの腕がムッキムキなのである。

 

肘から下は普通の腕なのだが、二の腕が信じられないほど鍛えられていた。

 

何かアカン系のプロテインを主食にしてるとしか思えない様な、筋と血管が浮いた二の腕はおばあちゃんの顔立ちとのミスマッチ加減が尋常ではなく、比喩ではなく本当に目がチカチカした。

 

『えっ?えっ?』と動揺してる間も無くマッサージオイルを塗られそれは突然はじまった。

 

 

 

コルギである。

 

 

 

いや、コルギ屋さんにきてコルギを頼んだのだから、コルギが始まるのは至極当然な流れである。

しかし文章では表しきれない程の“コルギ”としか形容出来ない、驚きに似た激痛が私に襲いかかってきたのだ。

 

刃牙の腕を持つババアに顔を蹂躙され、凄まじい痛みと、ぶつけようのない謎の怒りに私は涙が止まらなくなってしまった。

 

「泣かナイデー」

 

と言う刃牙ババアの腕は止まらない。

 

私は出産の経験はないが、もう顔から子供が生まれてくんじゃねーかと思う程痛い。クソ痛い。

 

『ヒッヒッフー』でお馴染みのラマーズ法で痛みを逃がそうとするも、刃牙ババアの手が私の頬を躊躇なく揉みしだき押し潰してくる為、息すらもままならい。

 

美しくなるためのコルギでどうしてこんな顔にならねばならないのか。

 

胸元の台に置かれた鏡にチラッと映る自分が不憫で更に泣けてくる。

痛みのあまり無意識に身体が揺れるのだが、それを刃牙ババアが二の腕でガッチリホールドしてくるので、私の上半身は、着信が来たガラケーのようにバイブレーションしていた。

 

黒田なな22歳、意地もプライドも捨て、ひたすらエグエグと泣く他なかった。

 

少しでも痛みを紛らわそうと目線を天井に移すと、妙に豪華なシャンデリアが飾ってあり、そこに吊るされたクリスタルには沢山の自分の顔が反射されていた。

 

美しいクリスタルの粒に写る沢山の凄まじい表情の私がキラキラと輝くその光景は、江戸川乱歩もびっくりの狂気の世界であった。

 

もう時間が経つのをひたすら待つことしか出来ない。アウシュビッツで人体実験をされたユダヤ人もこんな気持ちだったに違いない。

 

遠い異国の異人相手に勝手にシンパシーを感じ始め、人として感性がヤバくなってきたあたりでようやくコルギから解放された。

 

「おワタよー!ほら!スッキリ!」

 

そう言って手渡された鏡には

“生理時にバタ子がイラつきながら作ったアンパンマンの様な顔”

が写っていた。

 

無駄に敏感な肌は赤く腫れ、元々あったアゴのニキビは、刃牙ババアが万力の様な力で押し込んできた刺激のせいでチョコベビー大に膨らんでしまっていた。

 

 

 

かわいそうなブスの完成である。

 

 

 

 

 

そのあとの事はあまりよく覚えていない。

 

一万円払って激痛に耐えブスになったという事実に猛烈に腹が立ち、半泣きで待合室の猫を撫でた記憶しかない。

 

友人Mも似た様な目にあったらしく、二人で死んでいたのだが、友人Aは『痛きもちかった♡』と言いながら帰ってきた。

 

友人Aの顔が歪んでなかったのか、それともどマゾなのか、クソ程鈍感なのかは定かではないが、Aはご機嫌でルンルンであった。何よりである。

 

 

 

この経験から、人の忠告は聞くべきだという当たり前の事と、友人Mの「おもしろそーじゃん?」は全く面白くないという事を学んだのだった。