職業に貴賎は無いと言うけれど

大事な事なので先に書くが、この話は長いし暗い。そのため書いておいてなんだが、この体験談は読む事をお勧めしない。




JKビジネスというものをご存知だろうか?

※※※誤解の無い様、はじめに言っておくが、これは私がJKビジネスをした話ではない※※※

JK、つまり女子校生(の格好をした女の子)と触れ合う代わりに代金を支払うというビジネスである。

このJKビジネスは法的にグレーなモノが多く、近年取り締まりは強化しているものの全てを摘発するには至らないでいる。

JKビジネスの内容は様々で、ただJKを見ているだけのコースから一緒に散歩するコースや、マッサージをしたりされたり出来るコースもあるという。

そんなJKビジネスに対し「ありえない」「信じられない」「厭らしい」と嫌悪感を覚える人もいるだろう(というかそういう人が殆どだろう)。

しかし私はJKビジネスを提供する側も享受する側も、一概には言えぬ様々な事情があるのだろうと考えてきた。

そしてひょんな事からJKビジネスを【享受】し実態だの現状だのを知った。そして想像通りそこには簡単に拒絶の言葉で切り捨てられない世界があったのでここにまとめたいと思う。




就職活動中、とにかくお金がない私は時間を潰す際に献血へ行く事があった。献血をした事が無い人はピンとこないかも知れないが、最近の献血所のホスピタリティはとても厚く、そこらのカフェよりよっぽどくつろぐ事が出来る。 

そのため私は何度か、漫画や雑誌が充実している秋葉原献血所に行ったのだが、そこで一人の美少女と知り合った。仮にMとする。

彼女も暇つぶしと社会貢献を兼ねて献血所に来ていた。しかし献血は身体の負担を考え規則が非常に厳しく決められており、頻繁に通う事が出来ないようになっている。

そのためMとは刹那的な関係で終わるのかと思いきや、帰り際にLINEを交換を求められた。普段私は安易にLINEを交換する事を避けているのだが、Mの美少女力に負けてQRコードを提示した。

それからポツポツと連絡を取る様になり、献血所以外の場所でも会う様になっていった。時期が時期だった為、私はスーツで会う事が多く、逆に彼女はいつも私服だった。会話はたわいも無い内容ばかりだったが、自然とお互いの身の上話は避けて話していた様に思える。


そんな4月のある日、秋葉原で説明会があった私は帰りに電気街のあたりをウロウロしていたのだが、
まぁ勘の良い人ならもう既に分かっていると思うが、そこでJKの格好をしたMに会ったのだ。

見て見ぬフリをすれば良いものを、疲れで頭の回っていない私はわざわざMに話しかけに行ったのだ。当然Mは狼狽えていたし、必死に弁解をしていた。しかし私の価値観として、人様に迷惑さえかけていなければお金の稼ぎ方は自由だと思っているので「落ち着いて 笑」などと言いながらいつも通りに彼女に接した。

その日の夜中、MからLINEが来た。ざっくり言うと「軽蔑しないでくれてありがとう」という事と「これからも仲良くして欲しい」という事の2点だった。

上でも述べた様に、私はJKビジネスに対し特にこれといった嫌悪感を覚えていない。そのためあっさり「これからもよろしく」的な内容を返した。

またあえて言うならば、元々なんとなく、Mの仕事内容を察していたのかもしれない。

それからは互いに忙しくなかなか会えない日々が続いたが、時間があれば秋葉原へ行きMを探すようになっていた。連絡先を知っていながら、どうしてわざわざ歩いて彼女を探すのか自分でもよくわからなかった。好奇心とも、心配心とも違う形容し難い気持ちに突き動かされての行動だったのかもしれない。明確な理由なく私が誰かの為にここまで行動するのは珍しい事だった。

そして4月末の寒い雨の日、Mが高架下でビラ配りをしていたのを見つけた私は居ても立っても居られず、ついに彼女の時間を買った。

この行動が正解でない事はわかっている。

綺麗事抜きではっきり言おう。私は彼女が誰かに買われてしまうのが嫌で彼女の時間を買ったのだ。同情心も、もしかするとあったかもしれない。けれどあの日、華奢な肩を濡らしながらビラを配る友人を寒い高架下に置いたまま去らなかった自分は間違ってなかったと思いたい。


その日私はMの3時間を買って、1時間散歩をした後2時間添い寝をしてもらった。本当は3時間みっちり、普通に友だちと遊びに行くようにMとあちこち出掛けたかったのだが、彼女が働くお店は散歩する際に場所の制限があり、自由にどこでも出掛ける事が出来なかった。また強い雨の日だった事もあって散歩を続ける事が難しく、最後の2時間は彼女のお店へ行く事にした。

正直、お店に行ったら何か怖い目に合うのではとヒヤヒヤしたが幸い変なことも、ぼったくられる事もなかった。

お店の詳細は伏せるが、店内はカーテンで仕切られブース状になっており、丁度金融の面接会場の様になっていた(あんなに広い場所では無いが)。

そのブースの中でMと、薄い毛布の上で、お互いゆるゆるとした体勢で色んな話をした。話というよりも、おしゃべりに近かった。そしてそこで初めて彼女について詳しく知った。

ぼかして書くと、MはJKでは無いが10代。そしてお金が必要な状況であった。莫大な金額ではないが決して少なくも無い金額である。そのため本業と並行してこの仕事をしているとの事だった。

彼女は決して頭の悪い子ではない。頭の悪いフリをしているが、実際は聡い方だと思う。彼女は誰かに騙されている訳ではなく、自分の意思でこの仕事を選択したのだと思う。

この仕事中は嫌な事も多いという。それはここに書くのが憚られるような内容だった。

それでも彼女は自分自身に対して一定のプライドを持っていた。だからこそ、一度“沈むと”戻れない様な界隈には踏み込まず、ギリギリの仕事をするに留まっていたのだろう。

JKビジネスは仄暗い海だ。ほんの少しの明りを頼りにMは必要なお金を稼ぎつつ、Mらしさを保っている。しかし油断するとあっという間に波に攫われてしまう。そしてこの海は一度沈むと二度と浮かび上がってはこれない。


そんな彼女は私の就職活動をとても労ってくれた。環境が違う私の、ある種贅沢な苦労を彼女は案じ、成功を祈ってくれた。もしかすると建前や常套句の一環だったのかもしれない。
しかし美しい白い指で、あがり症の私の手のひらに何回も「人」の字を書いてくれたMを、私は信じたい。

あの時のあの場所は異空間だった。薄いカーテン一つ向こうではどんな不幸が起っていてもおかしくはない。そんな状況で私とMだけは、まるで親友とのお泊まり会の様な、楽しい時間を過ごしていた。

カード払いが出来たのは幸いだった。お陰で彼女に金欠で空っぽの財布を見せずに済んだし、何より“買った”感覚が薄らいだ。

帰り際に、Mが反射的に「また来てね」と言った後「今のやっぱなし、また、会おうね」と言い直したのが忘れられない。