甥っ子ができた

 

結婚したら自動で年上の妹ができて、セットで3才の甥っ子がついてきた。 

 

私は核家族一人っ子。母方に至っては一人っ孫なので、小さい子どもの相手をした方がほとんどなく、親戚の子どもとか好き嫌い云々以前に、どう絡んだらいいのか全くわからなかった。

 

ぶっちゃけ世の中には可愛げの無いないガキっているし、私つまんないと結構顔に出るタイプだし、かといって子どもとうまく絡めない女ってレッテル貼られたくないし?

 

メタ認知も相まって甥っ子と初対面した去年の正月はめちゃくちゃ不安だった。

行きの電車は通勤より憂鬱だった。

 

 

 

が、実際に会うと憂鬱が吹っ飛んだ。

 

そして自分でも驚いたが、甥っ子を目の前にした途端自然と屈んで目線を合わせ高い声で

「◯◯くん、はじめまして〜!」「照れちゃったかな?」「知らない人が来てビックリしちゃったよね〜!うんうんゴメンねぇ〜」

と、人見知りが始まった子どもへのはじめまして挨拶チュートリアル(叔母ver)を、誰に教わったわけでもないのにスルッとやった。

 

それは渡鳥が星を見て越冬するような、草食動物が出産後に子どもを舐めて立たせるような、そんな感覚だった。

 

冷静に考えれば、自分が物心つく前後に親戚にされたムーブの焼きましなんだろうが、そういう記憶が鮮明にある訳でもないし、意識した訳でもない。

なんなら1分前まで『自我もあやふやな小さい人間になんて話しかけたらいい訳!?』と思ってたくらいなので、やはり何かDNAから引っ張って来た感じも拭えない。

 

母性本能なんてのは都合の良いラベルにしか思ってなかったので(今もそう思ってる)、この自分の一連の感覚は非常に不気味だった。

 

感覚に反して甥っ子は可愛かった。

 

顔とか仕草とか良い子だとか、そういうの差し引いても可愛い。完全な贔屓目。そのへんにいる街中の子どもより断然可愛いく思える。

 

甥っ子の熱の入ったトミカの話に耳を傾け「うんうん」「そうなの!?」「すごーい」「じゃあコレは?」「そうなんだー!」と言い続けるのが楽しくて仕方ない。一所懸命さが微笑ましくて笑顔がこぼれる。

 

あと何をしても褒めたくなる。褒めちぎって揉みくちゃにしたい。

本当はボディビル大会みたいな捻りのあるワードで褒めたいのだが甥っ子を目の前にすると

「賢いねぇ〜天才だ!将来は科学者カナ?」

とか、浅いワードばかり出力されてしまう。悔しい。

 

あとプレゼントを買いたい衝動がムクムク湧いて来る。

 

意味がわからない。ただの親戚のガキやんけ。

話聞くだけで充分だろ。

いやでも笑顔を見せてほしい。

甥っ子の人生に「楽しい」を増やしたい。

あわよくば「ななちゃんありがとう」とか言われたい。

 

今までに無い感情を持て余した。

 

帰りの電車で「トミカ レア 人気」で検索をかけながら『まぁ1万くらいならdécolletéのリポソーム買わなきゃいける。』とか考えていた。

 

今まで自分中心に生きてきたのに......

 

いや、親や友達にプレゼントをすることはある。結構おせっかいな性格でもあるので誰かのために手間暇をかけることもよくある。

 

だけど『生きてて可愛いから』だけを動機に身銭切ることは、まぁない。

というか、他人の健康や成功を願う事はあっても『健やかな成長』を祈ることはしてこなかった。

 

さらに言うと甥っ子に会ってから、日本の未来も少し気にかかる様になってきた。

 

『明日隕石が落ちて全部が無に帰せばいい』とか『生まれてこない方が幸せだった』みたいな考えは変わらないが、政治とか環境とか、そういうマジで存在する考えないと割とマズイ事に対して『由々しい』と思う様になった。

 

具体的に何をどうするとか、そういうビジョンはないが『自分はこの世に蔓延る老害のケツしばきながら拭いていかにゃならんが、若い世代の子どもには、自分のケツを見せなくて良い様にしたいなぁ。』という感覚が芽生えた。

 

大人になるってこういうことかしら、そういうことなら大人になるのも悪くないわね。

 

なんて思う。いや何もしないんだけどね。偉そうなだけ。

 

ちなみに甥っ子のトミカブームは終わり、今は棘皮動物ブームらしい。渋いねぇ将来は海洋学者カナ?

この盆にはウニの殻をプレゼントする予定。

 

ヴェルタースオリジナルジジイ

 

 

 

私の上司はヴェルダースオリジナルのジジイに似ている。

 

https://youtu.be/s7a4m-Llx7c

※CMを知らない人とか、忘れた人は見てみて

 

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このヴェルタースオリジナルのジジイに似た上司は、私の業界にしてはかなり珍しく温和で人権派の稀有な人柄なのである。

 

 

 

 

 

 

 

......話は変わるが今年の冬頃、うちの会社のポンプ室的な小部屋(詳細はよくわからない)が壊れ廊下が水浸しになるという事件があった。

 


『直すには時間と大規模工事が必要となる。しばらくは応急措置で凌ぐため、近くを通る際は気を付けるように。』

との連絡メールが総務部から来て私の心は沸き立った。

 


災害等で実害がある場合は別だが、日常が水に沈むのってちょっとロマンがない?あるよね?

 


突然出来た期間限定デカ水溜りにワクワクを抑えられず、私は昼休憩の度に用もないのに浸水している部屋をウロウロしていた。


はじめは

「修理が中々進まずご迷惑おかけしてます。」

と丁寧に声をかけてくれていた修理のおいちゃんも次第に

 


「いつもすんません。」


「お、今日も来たんですか?」


「来ると思ってたよ。」

 


となっていき最後は


「暇なの?」


と言われてしまった。

無礼〜〜〜

 

 


そんなこんなでちょっと無礼で温水洋一に似た修理のおいちゃんこと吉田さんと仲良くなった。

 

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吉田さん曰くコロナの関係で修理に必要な部品が足りず、海外から届くまで1ヶ月はかかるらしい。


吉田さんは毎日水をポンプで汲み出し、壊れた箇所を専用のテープで塞いでくれるが、半日経つと部屋の一角、畳4畳程の一段深くなっているスペースに足が浸るほど水が溜まってしまう。

 


浅く、水が、ほぼ常に溜まる。

 


 

 

 


 

 

 

 


そうだ、漏水を利用して

水耕栽培をしよう。

 

 


水耕栽培とは〜

(すいこうさいばい、英語: hydroponics)とは、溶液栽培のうち固形培地を必要としないもののことをいう。水耕(法)、水栽培などとも呼ばれる。農業では多くの栽培に利用され、従来は不可能といわれていた根菜類の栽培も可能となっている。

 

 

 


会社で何かを育てる事にずっと憧れていた。


かつてデスクでミニ盆栽を育てていたが、周囲からは『半沢直樹ヴィラン』と言われ、先端恐怖症の先輩からは『松が刺さりそう』と持ち帰りを命じられ、泣く泣く撤収した事があった。

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一瞬、溜まった水でメダカなどの小魚を育てる案も浮かんだが「動物はバレた時シャレにならないよ」と吉田さんに言われたため、水耕栽培でレタスを育てる事に決めた。

 


吉田さんは「レタスもやめなよ」とも言っていた。

 


なんだか心配になり、念のため社則を確認したが水耕栽培を禁止する文言は記載なかった。

無いって事は、現状ダメではないし、何かを欺いたり破る事にはならない。ほぼほぼオーケーということである。

 

万が一レタスが明るみになり事態を詰問される事があった時は私を売って構わないと、不安がる吉田さんに何度も伝えて説得をした。

 


「そんなに、どうして......」

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最後には熱意が通じて吉田さんにもわかってもらう事ができた。

 

 

 


水耕栽培のセットは、Amazonで買える。


そういえば会社でプラネタリウムをした時も装置はAmazonで購入した。

最近はヨドバシ.comが流行りだが、あそこでは水耕栽培のセットは売っていない。いつだって私を支えてくれるのは結局Amazonなのだ。

 

 

ありがとうAmazon

これからもよろしくAmazon

 

 

水耕栽培セットは翌日に届いた。


届いてビックリ。1個分1セット買ったつもりが5個入り1セットを買っていたのだ。

説明文に記載はなく、商品画像の箱をよくよく見ると小さい文字でその旨の記載があった。

 

 

Amazonクンって、ちょっとそういうところあるよね(笑)

 


デカい段ボールが5個も家に届いた事で母は「何これ」「どこに置くの」「何する気なの」と憤慨し、父は「アヘン王にでもなるのか」と私を訝しんだ。

大丈夫、大麻は育てないから。レタスだから......

 

割と大きいセットな上に数もあったので3回に分けて朝早くの空いてる電車に乗り会社へと運んだ。


昼休憩を使い、漏水する部屋でスーツとストッキングを濡らしながらセットを組み立てる私を見ながら吉田さんはしきりに「どうして......」とボヤいていた。

 

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そんな吉田さんの心配をよそにレタスはすくすくと育った。

 


水耕栽培をはじめた当初は、レタスが育つより先に部品が届き工事がはじまるのではと吉田さんと二人で危惧していたが、部品は中々届かずレタスは想像を超えるスピードで育ち、2週間でサマになり、20日経った頃には小ぶりではあるものの綺麗で美味しそうなレタスになっていた。

 

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※イメージ


吉田さんは毎日小部屋に来ては「“風の谷のナウシカ”に出てくる地下室みたい......」と呟きながら水を汲み出していた。

 

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日ごと大きくなるレタスは私に普段のデスクワークでは得ることの出来ない喜びを与えてくれた。

 

やはり人間は一次産業の尊さを忘れてはいけないとだという事をしみじみ感じつつ、毎日せっせと昼休憩のたびにスポンジに栄養剤を染み込ませ、LEDライトを当て、大事だいじにレタスを育てていた。

 


『豊作だし、もうそろそろ収穫を始めないと持ち帰るのが厳しくなるなぁ』などと思っていたある朝のことだった。


冒頭紹介したヴェルタースオリジナルのジジイに似た上司が廊下で仁王立ちしながら私のレタスを抱えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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どうして......

 

 

 


みんな、知ってる?

人はこっそり育ててた野菜の存在がバレた時、フレーメン反応のような顔になるんだよ。知らなかったでしょ。また一つ賢くなったね。

 


ヴェルタースオリジナルのジジイ似の上司は眉間にシワを寄せ、レタスで塞がった両手の代わりに肩で応接室に入るよう促した。

 


「黒田くん、入りなさい。」

 


言われた通りに応接室に入ると、上司は抱えていたレタスを机にピラミッド状に詰み、ぴったりとドアを閉めブラインドを下げた。

 


「これは、なんだね黒田くん。」

 


人がわかりきった質問をする時は大抵怒っている時である。

 

しかし私は一抹の可能性に賭けた。

 


「.......これは、レタスです。」

 


野菜に疎い上司が純粋に「What is this ?」として聞いてきた可能性に希望を託し「This is lettuce.」と答えたのだ。

 

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「ふざけるのはやめたまえ。」

 

 

 

 

 

 

はずしたみたい〜〜〜

 

久々に大人にマジで嗜められてしまい流石の私も背筋が凍った。

うちの職場は本当に真面目で厳格、遊び心なんて一欠片もないので、ヘタすると処分が下る事もあり得る。

 


「申し訳ありません。昼休憩を使い、水耕栽培に取り組んでおりました。」

 


レタスの小山を前に深々と頭を下げる。ただでさえ入社以来色々あったのだ。これ以上人事から目をつけられるのは避けたい。

 

そもそも水耕栽培が原因でチョンボがつくなんで、人事ファイル史上一番意味不明だろ。

 


「修理業者から、君が勝手にレタスを育てはじめたと聞いたよ」

 

 

 


......よかった。

吉田さんはちゃんと私を売ったんだね......

それでいい、それでいいんだ......

 

ごめんね吉田さん。

ありがとう吉田さん。

さようなら吉田さん。

 


仲間を慮る囚われのスパイの様な感情が胸にじんわりと広がる。

 


「なぜレタスを育てた?」

 


「......水耕栽培で野菜を育てるのならレタスが向いていると学んだので。」

 


「学んだのか?」

 


「はい。独学ではありますが一応。」

 


「なぜ水耕栽培栽培だったんだ?」

 


「長期間水浸しになったポンプ室を利用したいと思いまして。」

 


「育ててどうするつもりだったのだ?」

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この人質問好きだな。

 

アキネーターなの?

 

アキネーターヴェルタースオリジナルジジイ、育てたら食べるに決まってるだろバーロー。

 


「食べるためですが?」

 


咄嗟にレスバで顔真っ赤のオタクの返しみたいな最悪の返答をしてしまった。

人間、余計なことを考えてると言わなくて良い事をめちゃくちゃ無礼な言い方で言ってしまったりするね。

 


「ここは農家でも食品メーカーでもない。業務に関係の無い事を無断でやるんじゃない。」

 


いい歳して正論の剣で上司に斬りつけられるOLの気持ち、みんなわかる?コレが死、ココが地獄。自業地獄。

 


「申し訳ありませんでした......」

 


「君の発想力や行動力は卓越している。ある種天賦の才なのだろう。」

 


「はぁ.......恐縮です。」

 


「でもレタスを作るのは違う。わかるね?」

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ぐうの音もでねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 


なんも言えねぇよ。

こんなしっかり正論叩きつけられたらもうなんも言えねぇもう北島康介より黙っちゃうまっていま令和だよねこのネタわかる人いる?ちゃんとついてきてる?

 


「このレタスは僕が廃棄しておくので黒田くんは本件を報告書にまとめて僕に提出すること。それで今回は不問とします。」

 


「寛大な措置、心より感謝申し上げます。」

 


一介のOLが言うセリフじゃねぇのよなぁと思いつつ再度頭を深々と下げる。

 


「......不躾であること重々承知した上でひとつ、宜しいでしょうか?」

 


「ん?なんだね。」

 


「そのレタス、持って帰ってはダメでしょうか?」

 


丹精込めて作った大切な野菜が破棄されるというのは、どうにもやり切れない悲しい気持ちになる。


人道的で心優しいこの上司になら、この気持ちをわかってもらえるのではないかと思ったのだ。

 

 

 

 

 

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「大概にしたまえ。」

 

 

 

 

 

 

ダメかーーーーーーーーーーーーーーー


こうして私のはじめての水耕栽培は苦い思い出として終わった

 

 

のだと、この時は思っていた。


次の日、レタスへの喪失感を抱えながらぼんやりパソコンの画面を眺めていると、件の上司がデスクにやってきた。


「え、なんですか?」


私という人間は根性がゴミカスなので、猛省のフェーズは一瞬で終わり、この時点では反省の気持ちよりレタスを失った無力感の方が勝っていた。


「黒田くん」


「あの、まだ報告書は出来てませんが.....」

 

 


「あのレタスね

 

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美味しかったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

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なんで食べたの......

 


破棄する事は応諾したけどさ、食べて良いなんて言ってないじゃん......

 

「実は僕も園芸が趣味でね、棄てるのは忍びなく、味も気になってね。」

 

 

 

 


ずるい。

 

 

 

ずるい!!!!!!!!!

 

 

 

私が!!!!!手塩にかけ!!!!!育てた!!!!!レタスを!!!!!!!!!!!

 

 

 

よくも!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

・・・・・・

 

『私の上司がくれた初めての野菜、それは水耕栽培で作られたレタスで私は入社4年目でした 。
その味は甘くて新鮮で、こんな素晴らしいレタスを貰える私は きっと特別な存在なのだと感じました。
今では私が上司、部下が作るのはもちろん水耕栽培のレタス 。

 

 
なぜなら、彼女もまた、特別な存在だからです。』

 

 


その後上司が腹痛と発熱で会社を3日休んだり、休み明けのヴェルジィに水耕栽培のノウハウをまとめた報告書を提出したら『そういうことじゃない』と再度呼び出し食らったのはまた別のお話。

いえ

 

 

物件は慎重に選ぼうねーーーーーー!!!!!

 


突発的に一人暮らしを始めてはや1ヶ月。

実家暮らしより面倒な事もあるが、住人との交流も上々で、まずますのシェアハウス生活を送っている。

 


じゃあなんで物件は慎重に決めろなどと失敗したかの様に話すのかと言うと

 

 

開くんですよねーーーーーー!

 


天袋が!!!!!!

 


何を言ってるかわからないと思うし、私もよくわからない。

 


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まず天袋って何かというと、画像のような和室の上部に取り付けられた小さい押し入れのような収納スペースなのだが

 

 


これが

 


開く

 


勝手に!!!!!!!!!!

 

 

 

入居2日目あたりから開くようになった。

 

は?そんなオプション要らんのだが?

 

いや普通の洋式のドアなら「風、カナ??」って思うんだけどね。天袋はさ、ドアじゃなくてね、襖なのよ。横にスライドする力がないと開かない訳。


しかも数センチならね?気のせいかなとか思うけど、違うのよ。ガッツリ開く。

 

端から端まで50センチくらい襖が動く。しかも開くだけじゃなくて閉まったりもする。

 


建て付けって訳でもなくね?

 


え、じゃあなんで開くの???

 


ここで一つ、確定演出をブッ込むと、この部屋告知事項アリだったんだよね。

 

 

それじゃね????????????

 

 

契約する時に告知事項について大家が話だそうとしたんだけど

「重大な欠陥とかでないなら話さないでください!」

って聞かなかったんだよね。なんかオカルトのバイアスがかかりそうで。

 


そしたらこのザマですよ。

 


思い込みだって信じたいけどよ〜

物理的に開くのはな〜

思い違いとか気にし過ぎの域をな〜

軽々超えてるからな〜

 

 

 

てか告知事項なんだったの???

 


気にならなね??????????

 

 

 

仲良くなった住人に、それとなく告知事項について聞いてみたら、会話のテンポが突然悪くなり、最後はなんとも微妙な空気になってしまった。

 


わかったことといえばみんなその告知事項について知ってるということ。

 


一人一部屋が割り振られていると言えど、暮らしているのは一つの建物なので全員に告知義務が発生するらしい。

 


無性に気になってきたので大家に改めて告知事項の内容を(クソ今更だが)聞いてみることにした。

 

 

 

 

 知らぬが仏


メールは1日後に帰ってきた。

“内容が込み入ってるため電話でお話ししたいです。”

文章を打つのが面倒なのか証拠を残したくないのか。

 


電話はメールより緊張するなと少し汗ばんだ手を乱暴にパジャマで拭き署名欄の番号に架ける。

 


1コール

2コール

3コール

 


......大家との通話時間は5分もなかったが、聞かない方が良い事というのは世の中あるという後悔と、通話後の余韻のせいで長い会話をした後のような疲労感だけが残った。

 

 

 

 

 ありふれてはいない不幸な話

 

「......最初、内覧で会った時から、違和感があったんだけどね。」

 

 

私の住むシェアハウスは女性専用なのだが、昔は即日入居も可だったため、いわゆる“訳アリ”の人が入居を希望してくる事もままあったそうだ。


そういった訳アリの人は、どうしても退去のペースが早かったり、他の住人とトラブルを起こす事もあり『そろそろ即日入居不可にしよう』と思っていた頃、私の部屋の前の住人はやってきたという。

 

 

「......こう言っちゃなんだけど、もしかしたら、ちょっと知的な障害とかもあったのかもしれないなぁ。」

 

 

ずっと笑顔でニコニコした人だったという。少し会話が噛み合わないところもあったが、頭金もあったことから、これが最後と決めて大家は契約を交わした。


しかし契約は初日に反故にされた。その女性は異様に少ない引越し荷物と一緒に赤ちゃんを連れてきたのだ。しかも産まれたての。


どんなに周囲に隠して連れ込んだとしても、泣かない赤ちゃんは居ない。引っ越したその晩にはその存在に皆気付いたという。

 

 

「赤ちゃんに気付いた住人から電話で苦情が来てね。すぐに飛んで行って彼女に話を聞いたよ。」

 

 

詳細な経緯はわからないが、彼女はいわゆる“野良妊婦”という状態だったようで、救急搬送され出産するまで、産婦人科の検診に行った事もなければ母子手帳も持って居なかったらしい。


出産後、退院しても行く先がなかったのだという。退院後にすぐ住める場所を探してここに辿り着いたのだという。

 

 

「本当はね、今すぐにでも出て行って欲しかったけど。行くアテがないって言うからさぁ。」

 

 

折衷案として頭金を返す代わりに2週間後には退去する事となった。


猶予を与えられた彼女は謝罪と感謝を述べながら。ずっとニコニコ笑っていたという。


最初は疎ましく思っていた住人達も、行くアテの無い彼女を哀れむ気持ちもあってか徐々に態度が軟化し、母子ともに受け入れてくれそうなNPO法人やボランティア団体を探したり、使えそうな毛布を差し入れする事もあったという。

 

 

「トラブルでスタートした割に上手くいってたから......その分衝撃は大きかったね。」

 

 

赤ちゃんが亡くなった。

 


入居から10日目くらいのことだった。

 


住人から連絡を受けた大家がシェアハウスに向かうと、彼女は既に取り調べのため警察署へ向かった後だったという。

 

 

「眠ったまま、突然死んでしまったらしいんだ。」

 

 

死亡した人の年齢に限らず、不審死の場合は警察がやって来て現場検証を行い、必要に応じて事情聴取を行う。

 

この時は出産や入居の事情が事情なだけに、虐待や無理心中も疑われ大家や住人までも事情聴取を受けたが、検死の結果、死因は“乳児突然死症候群”と判断された。


乳児突然死症候群は世界中の一歳以下の乳幼児に稀に起こる原因不明の突然死だ。


発症に至るプロセスの仮説やある程度の対策は講じられているものの、完全に防ぐ方法や明確な原因は今現在もわかっていない病。

ランダムに起こる不幸としか言いようがない。

 

 

「一人になってしまったし、家賃も数ヶ月免除するからここに残れば?って、提案したんだけどね。」

 


彼女は小さな骨壷と少ない荷物を片手にシェアハウスを出て行ったという。

 

 


 好奇心は猫をも殺す


そんな事ってあるかよ、と思いながらぼんやりと物干し台から夕日が沈むのを見る。

 


この世に悲しみ数多あれど、親が子を失う悲しみは一入ではないだろうか。

 


むかし病院で偶々子どもの臨終を見かけた事があったが、あの時聞いた親の叫びは他人の私の心すら刺した。今でも耳から離れない。

 


子を持たない私にとって、我が子を失う悲しみは計り知れない。

 


しかしどんなに悼んだって過去は変わらない。この部屋で起こった事は変えられない。

 


好奇心が生んだ後味の悪さを噛み締めながら部屋に戻ると、また天袋の襖が動いていた。

 


しかし普段の開き方と違う。

 


いつもより確実にゆっくりと開いていく。

 


心拍数が一気に上がるのと同時に身体のどこも動かせなくなる。

 


スルスルと小さく音をたてながら、ゆっくり、ゆっくりと天袋が開いていく。

 


身体が硬直し息が浅くなる。

 

 

 

 


直感でわかる。何かが出てくる。

 

 

 

 


いつもはただ開いたり閉まったりするだけの天袋から、何かが出てくる。絶対に。

 


頭の芯が恐怖じわりと麻痺して身体を動かす事が出来ない。今この瞬間を認知し続ける事しか出来ない。

 


せめて目だけでも閉じたいのにそれすら出来ない。金縛りにあったように指一つ、瞼一つ動かせない。

 


天袋の半分が開き、カツンと襖が床柱に当たる。

 


スルスルと襖が開く時と同じ音を立てながらそれが出て来る。

 


女だ。

 


女はゆっくりと天袋から身を乗り出す。

おどろおどろしく呻きながら這い出るのではなく、襖を開け閉めする時のスルスルという音を立てながらゆっくりと滑り出てくる。

 


最悪、最悪、最悪。私が何をした?何もしてないだろう。それが嫌なのか?何もしない私が許せないのか?でも仕方ないじゃないかどうしようもないじゃないか誰か助けてごめんなさい。

 


突然女が顔をバッとあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その女は、私の母の顔をしていた。

 

 

 


悪夢で飛び起きたのはいつぶりだっただろうか。


寝起きだが心臓はドクドクと脈打ち高熱を出した時のような寝汗をぐっしょりとかいていた。


「怖かった。」


あまりの鮮烈な悪夢に思わず独り言が溢れ出る。


「怖い、怖かった、マジで、怖すぎた、無理......」


あえて声に出すことで現実を噛み締める。今になって涙が薄っすら浮かんでくる。


普段は日焼けを気にして締め切っている遮光カーテンを開く。薄曇りのせいで陽射が弱い。


それでも充分だった。あの悪夢を思えば、例え弱々しくとも太陽の光がひたすらにありがたかった。


母に電話しようかと思いiPhoneに手を伸ばすが、直前にみた悪夢が脳裏にチラつき怖くなりやめた。本当に胸糞の悪い夢をみた。

 

 

 

夢の中の、母の顔をした女はニコニコ笑っていた。

 

 

 

 


......なんて事がここ数日間で起きたから文章にまとめたけど、まぁ所詮はブログだから。


もちろん脚色もかなりあるし、プライバシーのために改変したところもあるから。創作作品、フィクションだと思って欲しい。


私に文才が無いのも相まって、ホラーとしてらパンチ力のない内容だっただろう。

 

中途半端過ぎてホラー好きからは石を投げられそうだ。


だからそんなに構えず、なんなら「つまんねー話で脅かすなよ」と言って笑って欲しい。

 

 

 

私の部屋で過去死人が出たのは本当だし、それが不幸な出来事だったのも本当。


このブログでは書かなかったけど、女の咽び泣く声や不審な足音を聞いたのも本当。


住み始めた時から違和感を抱いたのも本当だし、悪夢を見たのも本当。


天袋が開くのも本当。

 

 

 


それでも、いやだからこそ、そんなの大丈夫だって慰めてくれ。

気のせいだよって笑い飛ばしてくれよ。

 

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お昼寝事変

 

民俗学的気付きに際し、第一発見者のおじさんと総務部に特別な謝罪の意を込めて〜

 

 

 

少し昔の短い話を。

 

 

10月あたりに書いたブログ「お昼寝したい」でほんの少し触れた、私がまだ二流のお昼寝人(シエスター)だった頃の話である。

 

 

入社1、2年目あたりだっただろうか。一応OLとして働いていた私だったが、とにかく毎日8時間寝ても眠く、昼休憩の度に会社で横になれる場所を探しては、持参した毛布にうずくまって昼寝をしてた。

 


しかし身近な場所に横になってお昼寝出来るスペースは中々なく、自分の部署の一つ上の階の薄暗く狭い、よくわからない物品庫の様な部屋を時々使っていた。

 


あの頃はまだシエスターになりたてで経験も浅く、人の来る頻度や時間帯などをよく調べもせずかなり無防備な状態でお昼寝をしていたのだが、それがマズかった。

 

 

ある日、いつものように書類などを保管する倉庫でスヤスヤ寝ていると物音がした。

 


完全に寝ていた為めちゃくちゃ油断したまま、ここは家か?会社か?朝か?夜か?今何時だ?とぼんやり考えつつ毛布を被ったままモゾりと動くと

 

 

 

ヴォアーーーーーーーーーーー!?!?!?

 

 

 

とおっさんの悲鳴が聞こえた。

 


しまった。人に見つかってしまったのだ。

 

 

幸か不幸か私は茶色い毛布を頭からすっぽり被っていたので顔や服装が見られてしまうことはなかったのだが、おじさんからすると床で茶色い物体ウゴウゴしてるのだから、恐怖でしかなかっただろう。

 


血の気が引き一気に目が覚め、毛布を被ったまま弾かれた様に飛び出し逃げた。人生で一番猛スピードでダッシュした気がする。

 

 

万が一見つかった時の逃げるルートはお昼寝を始めた時から決めていた。

 


弊社には監視カメラがあらゆる箇所に設置されている。

しかしカメラには必ず死角がある(これは私の好きな漫画『魔人探偵脳噛ネウロ』で学んだ)。

 


詳しくは言えないのだが、上手いことその死角を縫う様にすり抜け監視カメラの無い非常階段までたどり着ければ、人混みに紛れる事が出来るのだ。

 


私は茶色い毛布を頭から被ったまま逃亡ルートをたどり、なんとか顔をカメラに映す事なく逃げ切り、そしらぬ顔で昼休憩終わりのOLとして颯爽とデスクに戻ったのである。

 

 

 

 


しかし、というかやはり、それで終わりとはならなかった。

 


まずデスクに戻って一時間後、総務部からメールが入った。

 


【注意】不審者情報

 


あーーーーんーーーーーなるほどそうよねあれは確かに不審者そのものだったわウンウンそれにしてもこんなメール初めて見たなフムフムこりゃちょっとヤベェな。

 


私を見つけ悲鳴をあげたおじさんは、一連の出来事をちゃんと上に報告したらしい。たしかに 報・連・相は社会人の基本である。

 

 
しかし私にとってこれは中々マズい状況である。バレたら上司に怒られるだけではなく、シンプルに呆れられ周囲からもドン引きされるだろう。最悪毛布を没収されるかもしれない。

 


居ても立ってもいられず総務部の知り合いに内線を架けそれとなく探りを入れると

 


「不審者の報告があり監視カメラの確認をしてみたが途中で見失ってしまっている」


「しかも速すぎてカメラのフレームが追いついていない」


「人ではないように見える」

 


との事だった。


私の姿や逃走経路が映っていなかった事に安堵しながら「そか〜怖いね〜><」と返して受話器を置いたのだが、それから間も無くしてまたメールが届いた。

 

 

 

【続報】野犬情報

 

 

 

めちゃくちゃなスピードと茶色の見た目から人では無いと判断されたらしい。

でも丸の内で野犬が出るそんなことある?なくね??総務部だいぶ混乱してるよね???大丈夫????なんか本当ごめんね?????

 


人に迷惑をかけてまでお昼寝はしたくない。そんなシエスターはド三流である。もう二度と見つかるまいと、ひたすら猛省した昼下がりであった。

 

 

 

 


その日の夕方、コーヒーマシンの前でぼんやり抽出が終わるのを待っていると先輩に声をかけられた。

 


「今日の総務部のメール見た?」

 


動揺し、出来上あがったコーヒーを危うく落としそうになりつつ適当な相槌を打つ。

 


「あ、なんかメールきてましたね〜」

 


「そうそう。でね、ここだけの話なんだけど、目撃されたってアレ

 

 

 

 

 

 


ぬらりひょんだったらしいよ。」

 

 

 

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(図)

 

捕まえようとすると沈んだり浮かんだりを繰り返して人をからかうという。「ぬらり」と手をすり抜け、「ひょん」と浮いてくることを繰り返すためこの名称が付されたとされている。

(引用)

 

 

そんな事、あるかよ。せめて野犬だろ。憶測飛びすぎだろ。たしかに突然現れて消えたけどさ。妖怪て。

 


なるほど、妖怪の伝承はこうした人の奇行から生まれ流布されていくのかもしれない。これは民俗学的発見ではないだろうか?どこの学会に発表したらいいかわからないけど。

 


ぬらりひょん、マジすか」

 


飲み会の3次会みたいな返しをしつつ、シエスターとしての自覚の甘さを痛感し、今度こそ誰にも見つからない私だけのお昼寝サンクチュアリを探そうと心に誓ったのだった。

 

 

 

 

参考文献〜図および引用文〜

 

(図)

佐脇嵩之『百怪図巻』より「ぬらりひょん

(引用文)

多田克己「解説」『妖怪図巻』京極夏彦編、国書刊行会、2000年。

Wikipedia記載の説明文と参考文献を引用。

 

ザリガニと窃盗の話

友達から

「黒田が体験した出来事をもっと読みたい」

というありがたい言葉をもらったので、少し書き出してみようと思う。

 

 


社会人2年目のある日、あまりに暇だったので近所をぶらぶら自転車で徘徊していたところ、普段はあまり通らない道で用水路を見つけた。

何気なく自転車を停めて覗き込んでみると、大量のザリガニが発生していた。

 


みんなはザリガニ、釣った事あるだろうか?

 


ザリガニ釣りは、楽しい。生き物を捕まえるという原始的な喜びがそこにはある。しかも割り箸にタコ糸を垂らして先にサキイカをつけるだけで釣れる。チョロい。


小学生の頃、仲良しだった荒川のホームレスのおじちゃんに甲殻類の捕まえ方を教えて貰ったので私は釣り竿がなくてもザリガニなど手掴みでゲット出来るのだが、野生のザリガニは臭いので釣り竿で釣るに限る。

 

そんなこんなで久々にザリガニ釣りたいなと思い帰宅後、一緒にザリガニを釣らないかと母を誘うと


「日焼けするからイヤ」


と断られてしまった。そこかよ。誘っといてなんだけど、他に理由あっただろ。

 

しかし23歳の女が一人、用水路でザリガニと格闘するのは流石に異様なのでしつこく母を誘い続けると


「じゃあ見てるだけ」

「30分だけなら」

「バケツあったかしら」

「割り箸なら100膳くらいあるわよ」

「ママでも上手に釣れるのかしら」


と、一緒にザリガニを釣る方向に流れてくれた。ありがとう母。そして意思弱過ぎ。絶対歌舞伎町でキャッチの話聞いたりしないでくれよな。あと割り箸ありすぎ。90膳くらい捨てて。

 

ここで冷静に

「いい歳して親子でザリガニ釣りかよ」

と思わないでほしい。正論で殴らないで。仲良し親子が二人で温泉旅行に行くのと一緒だと考えてくれ。ザリガニ釣りはその延長上にある。

 

ちなみに母と私がザリガニ釣りについてアレコレ話してる間、父は軽く引いていた。父の感性は多分正しい。

 

 

 

 

翌日、母と連れ立って件の用水路でザリガニ釣りをすると、案の定めちゃくちゃ釣れた。日焼け対策完全武装した母も、途中からノリノリで釣っていた。

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側から見れば

「飼う訳でもなければ食べる訳でもないのに何をしてるのか?」

と意味不明な行動なのだろうが、ザリガニ釣りは結果ではない。釣りという過程を楽しむものなのだ(その為どんなに釣っても最後は元いた場所にリリースする)。

 

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1時間弱ほど釣りまくり、持っていった入れ物がザリガニで一杯になったところで腰を上げ、ふと自分の自転車に目を向けた。

 

 


カバンがねぇ。

 

 

 

私の黒いDAIANAのカバンがねぇ。

 

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自転車のカゴに入れていたはずのカバンが無い。

置き忘れ......はあり得ないどこにも寄っていない。見間違い......もあり得ない自転車のカゴは確かにカラだ。

 


入れ物の中のザリガニがうごめく。

春の日差しが頬を照らす。

 

 


なるほど、窃盗ですわ。

 

 

 

ザリガニ釣りに熱中するあまり自転車のカゴにカバンを入れたまま、親子揃ってずいぶん離れたところまで行ってしまっていたのがマズかった。


知らない人のために言うと、私は生まれも育ちも足立区で、この時ザリガニを釣っていたのも足立区だった。


地元民である私の体感として、正直な話をすると足立区の治安は良く無い。

近年凶悪犯罪こそ少ないが、放火と軽犯罪が妙に多く、自転車の窃盗(通称:チャリパク)に至っては足立区が条例を変えるレベルで多発している。

 

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(実際に足立区が作成・配布したポスター。盗難車の6割が無施錠とあるが、逆に言えば4割は鍵をかけていても盗まれるという衝撃。)

 

 

そんな足立区でカバンから目を離すなど「盗んでください!」と言っているようなものだった。


幸か不幸か、これまでの人生あらゆるトラブルに遭遇してきた経験のある私は割と冷静に状況を受け入れる事ができた。

 

こういう時は慌てても仕方ない。カバンが盗まれた事を努めて明るく母に告げると

「えぇ!!」

と叫び、みるみるうちに泣き出してしまった。

まぁ確かに成人済みで社会人の娘とザリガニを釣っていて窃盗にあったら泣きたくもなるかも知れない。


さめざめと泣く母を慰めつつ銀行の口座やクレジットカードを粛々と凍結させていく。


当時、私の口座には小学生の貯金程度の預金しか入って無かったので、不正引き出しに対する焦りはあまり無かった。それよりも保険証やサンリオピューロランドの年パス、メイクポーチが盗まれた事の方が痛手だった。


沸々と犯人への怒りが込み上げて来る中、遺失物届け出そうと半ベソの母と一緒に最寄りの交番へ行くと、

 


綾瀬駅はあっちです!!!!!!!」

 


と絶叫しながらお巡りさんが出てきた。いや聞いていない。私は駅までの道のりを知りたいんじゃないのよ。カバンをね、盗まれたのよ。


訂正するより先に、その元気ハツラツなお巡りさんを軽く小突きながら奥から先輩らしきお巡りさんが出てきて2人でわちゃわちゃし出した。

なに?アンタらこち亀から出て来たの??ここ葛飾区???

 

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とりあえず一連の出来事を伝えるも、とにかく2人のキャラが濃い。先輩の方は霜降り明星粗品にちょっと似ていて、後輩はみやぞんにそっくりだった(以下先輩さんと後輩くんとする)。

先輩さんは後輩くんの手前もあってか話を進めていくにつれどんどんやる気になってしまい、しまいには「現場検証をする」と言い出しはじめた。

 

 

 

ザリガニ釣りで窃盗にあった現場の検証???

 

 


世の中には色んな不思議な物事や出来事があるが、これほど意味不明なものはそうそうないだろう。

後輩くんが「え〜オレ現場検証初めてッスよ〜」と謎に照れだす。マジかよ、すまない。君の現場検証バージンは私のザリガニ釣りだ。よろしく。

 

 

 

 


みんなは現場検証、立ち会った事あるだろうか?


立ち合ったことのある人はわかると思うが、現場検証はひたすら出来事を時系列順に述べて証拠として落とし込んでいく。ザリガニ釣りの現場検証も例外ではなく、先輩さんはアレコレ盗まれた場所の詳細を確認すると、おもむろにデジカメを取りだした。


証拠写真を撮りますので、窃盗にあった場所を指差してください。

 

 


??????

 

 


現場の写真だけ撮ればいいのかと思ったが、誰が訴えてるかを記録する必要があるらしく、現場に停めた自転車のカゴを私が指差す写真を引きで撮るという。


そんな照れ臭い撮影ある???


にっこり笑うのも変なので真顔を意識したのだが、かえってシュールさが際立ってしまいマグリットの絵画みたいな写真になってしまったと思う。


この日、ザリガニが大量にいる用水路の横に停めた自転車を指差して、カバンを何者かにパクられたと訴える無表情のOLの写真がこの世に誕生したのだ。

Happy birthday to crazy photo.

 


母とはここで別れ、羞恥心でいたたまれない気持ちのままお巡りさん二人組と交番に戻り事情聴取を受け手続きを進めた。

 

その際後輩くんが不慣れ故に、犯人の指紋を採取しようとして銀粉をかけ過ぎてしまい自転車のハンドルがギンギラ銀のメタリックカラーになったり、私の指紋を25本分も採集したりと色々あったのだが、長くなるので割愛する。

 

指にベッタリついた指紋採取用のインクを拭き終わる頃には、窃盗発覚から結構時間が経っており辺りもすっかり暗くなっていたのだが、ここから被害届を書き起こすという。

 

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(「思い出に一枚いいですか」と許可は貰っている)

 

ささっと遺失物届けを書くだけで終わらせるつもりだったのに、なんだか大事になってしまった。だがここまで来たらしょうがない。もうどうにでもなれ、なんでも聞いてくれ。

貴重な週末がこんな形で潰れてしまい半ばヤケクソになる中、後輩くんが核心をついてきた。


「なるほどですね〜それで質問なんですけど〜そもそもなんでザリガニ釣ってたんですか?」

 

なんでも聞いてくれとは思ったが、改めて理由を聞かれるのは、なんというか、冷静にキツイ。急に恥ずかしさが込み上げてくる。

 

良い大人がザリガニを釣る動機など、どう説明すれば良いのだろう。


「......なんか、えと、ザリガニ釣るのって、楽しいので、母を誘って、童心にかえって......ヘヘッ......」


最悪だった。歯切れ悪く、映画ですぐ死ぬ下っ端のモブみたいな笑い方をしてしまった。

もう自分で穴を掘るので入りたい。帰りたい。ザリガニを釣ってただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのか......

 

 

そんなこんなで恥ずかしさに身を焼かれているうちに被害届が出来上がった。

 

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改めて文字にするとマヌケ感が凄い。

 

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(この写真も撮影許可は貰っている)

 


そしてしっかり母とザリガニ釣りしてた旨も記載されていた。丁寧な記載、恐縮です。

 

 


全てが終わり、交番を出たのは21:00近くだった。ザリガニも眠っている頃だろう。

 

月が綺麗だったのを覚えている。

 

 

 

 


実はこの話にはとんでもないオチがある。

 


なんと数日後カバンが出てきたのだ。

 


盗まれた2日後あたり公園にポツンと置かれていたのを親切な人が届けてくれたらしい。警察署から「あんたのカバン、出てきたよ」という内容のハガキが届いて発覚した。


めちゃくちゃ面倒な手続きの後、本当にカバンは無事帰ってきた。驚くべきことに、なんと財布のクレジットカードから保険証、サンリオピューロランドの年パス、メイクポーチまで丸々そのまま入っていた。


財布の中の現金はあらかた抜かれていたのだが、巫女の友人がお守りにくれた金の紐のついた5円玉だけは盗られていなかった。

 

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どうやら信心深いスリだったらしい。いやバチ当たりを気にする奴がスリをするなよ。


現金を抜かれたのもムカついたが、それよりムカついた事がある。


空になった財布のお札入れ部分に馬券が入っていたのだ。

 

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しかも3枚。

 


当たり前だが外れていた。

 


人から盗んだ金でギャンブルをするな!!!

そして外すな!!!!

せめて当てろ!!!!!

そして分け前をよこせ!!!!!!


ハズレたなら捨てろ!!!

盗んだ金でコレ買いましたって報告すな!!!!

死ぬまで黙ってろ!!!!!

 

 


そもそも盗むな!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

軽犯罪と人情の街、足立区で生きていくという事の意味とその覚悟を改めて刻み込まれた出来事であった。

 

みんなも、ザリガニを釣る際はどうぞお気をつけて。

お昼寝したい

8月末日、仕事の量と質が凄まじく私のストレス指数は上がりまくっていた。


金融機関勤めなのでコンプラ上詳しい説明は出来ないのだが、例えるならこんな感じ。

 

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無理無理無理無理無理

 

無理が過ぎて心の声が幻聴として聞こえてくる......

 

 

 

...タイ

 


.......

 


...ネ...シタイ......

 


.......

 


オヒルネシタイ

 

 

 

 

 

 

!!!!!お昼寝したい!!!!!

 


私はお昼寝が大好きだ。

夜10時間しっかり寝たとしてもお昼寝したいし、ディズニーランドに行ったとしてもアトラクションに並びながら仮眠するし、旅行先でもガンガン寝る。時差とかなくても寝る。だから出来ることなら毎日お昼寝をさせて欲しい。


別にサボって寝ようという訳ではない。昼休憩の1時間中5分で昼食を済ませ残りの55分でお昼寝をしたいだけなのだ。


「普通に寝ればいいじゃん」


とマジレスしたそこのお前。馬鹿野郎!この大馬鹿野郎!!いい年した社会人がしっかりしたお昼寝するのは本当に難しいんだからな!!!


机に突っ伏して寝るとか、悪いけどそんなん昼寝とは呼べない。

私は誰の目も気にしないでのびのびゴローリなお昼寝を目指してんだ。二度と舐めた事言わないで欲しい。


お昼寝、なめんなよ。

 

 

 

 

 

少し熱が入ってしまった。


普通の大人ならお昼寝をしない日々に慣れてくるのかもしれないが、こちとら生粋のシエスター(昼寝人)である。今の部署へ異動してくる前、本社ビルで「ぬらりひょん事件」を起こしてなお昼寝をやめないプロとして矜恃がある。


まず総務部から自社ビルの図面を取り寄せ、図面に印をつけためぼしい空間を実踏していく。が、どこも鍵がかかっていたり、会議室として利用されていたりなどしてお昼寝が出来る場所が中々見つからない。


贅沢な条件は一つも出してない。東京の家賃相場を知らないボンビーガールの様なワガママなど言っていない。昼休憩で横になってお昼寝をしたい。ただそれだけなのだ。

私の、私だけのお昼寝出来る場所......人の目に付かず、のびのびシエスタをキめられるサンクチュアリ......


数日間かけて昼休みを使い1階から31階まで徘徊したが納得のいくスペースは見つからず、絶望しながら自分の部署の入っているフロアの図面を改めて見返した見た時に、一箇所まだちゃんと見てない場所がある事に気がついた。


男子トイレと女子トイレの間に空間がある。

 

最初に見た時は掃除用具を収納するスペースかなんかだと思ったが、それにしてはちょっと広い。図面をよくよく見てみると、部屋があることを示す表記は無いがドアがあるかのような表記がうっっっすらと書かれている。


こんなとこにドアなんてあったか?毎日このフロアのトイレ使ってるのに気付かないなんてことある??認知歪んでた???


そう思いながら半信半疑でトイレの狭間にあるその謎空間のあたりにいくと

 

 


あった

 

 

 

ドアというより壁に近い、存在感が限りなくゼロのドアがそこにあった。

一年弱このフロアのトイレを使い続けてたのにこのドアを視認したのはこの時が初めてだった。え?これゲームによくある実績解除しないと先に進めないドアなの??いまトロフィー獲得した感じ???これ現実????


人通りが然程ない時間帯だったため意を決してドアノブに手をかける。鍵が開いている。奇跡だ。私は無神論者だがこの時ばかりは神に感謝をした。見てますか?お昼寝の神様。どうか、私に、力を......

 

 

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やったーーーーーーーーーーーーーー!!!

 

 

お昼寝出来るじゃーーーーーーーーーん!!!

 

 

努力が報われた瞬間である。喜びの雄叫びをあげたいところだが壁一枚向こうはトイレで誰が居るかわからないのでサイレントで喜びを一人表現しまくる。

もう可愛い動きとか全く出来ない人間なので、マリオのパックンの様な動きになってしまった。

 

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大量の食料と毛布が入った段ボールが積まれてる事から災害時用の備蓄庫である事がうかがえる。非常時に備えた場所だから鍵が空いてるのかと納得しつつ、そんな大切な場所が図面上ほぼ記載されてないってどうなの?とも思ったが一度置いておこう。もうそんな事はどうでもいい。オールオッケー。いま、ここに、お昼寝出来るスペースがある。その事実だけが私にとっての全てなのだオーライ。

 

急いで自席に戻りPCで社則を見返したが災害時用備蓄庫で寝ることは禁じられていなかった。そもそも成人済の社会人が備蓄庫でお昼寝をする事を想定していないからわざわざ書き出してないだけな気はしないでもない。そもそもモラル的にどうなのか......

 

少しばかり気が引けたが、こちとら毎日ストレスでメンタルが被災してるのでこれは正規の利用にあたると自分の中で結論付けた。これもお昼寝の神の思し召しということで、ね?

 

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大量にある段ボールが死角を作ることも出来る上に、換気扇と空調も動いている。端に寄せられていた空の潰された段ボールを敷物にして“陣地”を作りその上でゴロンと仰向けになる。

 


.......これを読んでいるそこの君は、出来るだろうか?職場で寝っ転がりながらおにぎりを食べる事が。


私はできる。横になって昆布おにぎりを食べられちゃう。行儀悪いねでも行儀悪いことって楽しいんだよ。

 

いいだろう!!!!!羨ましいだろ!!!!!これが不自由から生まれた自由の形だ!!!!!!!!!!笑いたければ笑え!!!!!!!!!!私は休憩中椅子に座ってる皆を哀れんでいる!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

興奮し過ぎて語気が荒くなってしまったが、かくして私はお昼寝スペースを手に入れたのだ。

 


しかし一つ問題が発生した。


めちゃくちゃ暗いのである。


薄暗いとかいうレベルではない。漆黒。5センチ前にかざした自分の手が見えないくらい暗い。リアル一寸先は闇。

 

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↑(明かりなしで撮った写真)


照明器具は付いているのだが、これをつけたことによりコントロールルームに照明のオンオフの通知が行く可能性がある事を考えると使用は避けたい。スマホのライト機能を使ってみたものの、めちゃくちゃバッテリーを食う。

 

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↑(ライト機能を使って撮った写真)

 

 

仕方ないので懐中電灯でも買うかとAmazonのアプリを開いたその瞬間、閃いてしまった。

 

 


暗さ利用してプラネタリウムやりたくない???????????

 

 


検索すると家庭用のプラネタリウムが数千円で売られていたので迷わずワンタッチ購入した。


この暗い六畳程度の倉庫が、星降るお昼寝サンクチュアリになる。想像したら最高過ぎて鳥肌が立ち、その日はワクワクし過ぎて中々寝付けなかった(もちろん夜ではなくお昼寝の話である)。

 

 

 

 


Amazonは、届くのが早い。


思い付いた次の日にプラネタリウムは届いた。ありがとう現代社会。ありがとう佐川。

1秒でも早く使いたかったが、ここで早まって仕事の手を抜くシエスターは二流なので真面目に業務をこなす。もう25歳だしね、うん。もう25歳か......

 

 

 


正気に戻ったら負けなので、お昼休みになった瞬間プラネタリウムを小脇に抱え音速でフロアを出てトイレに行くと見せかけてフェイントかけつつお昼寝スペースへと滑り込む。


ちょっと震える手でプラネタリウムの電源をつけると突然デカめの声で

Bluetooth モード !」と喋り出したので本気でビビった。

 

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咄嗟に「バッ!ちょ、バレるだろ(小声)」とプラネタリウムに話しかけてしまい、使い魔が勝手に学校について来た主人公みたいになってしまった。


説明書をちゃんと読まず捨てたので知らなかったのだが、このプラネタリウムは音楽も流せるらしい。すげぇ。ドラえもんの道具かよ。


暗闇の中手探りで星空モードのスイッチを押すととんでもなかった。

 

 

 

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凄くない??????????????

 


お昼寝する場所を探していただけなのに、とんでもないところに着地したなと思いつつ寝っ転がると、満点の星空が降り注ぐもんだから笑いがこみ上げてしまった。

 

しかも付属のリモコンで色んな色に変えられる機能付き。感動して沢山写真を撮ったら普段はTwitterのスクショばかりのカメラロールもチームラボみたいになった。

 

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毎日代わり映えのない日々を送っていた一介のOLが星空の下、横になりながらおにぎりを食べてそのままお昼寝をしちゃうって凄くない???

そのままAirPodsでKIRINJIのエイリアンズを聞いたら開放感と雰囲気の良さが凄くて薄ら涙が溢れてきた。これ何泣き???何の涙なんだ??

 

自分でもよくわからないが、この日、倉庫で段ボールの上で寝っ転がりながら星空を見て泣いているOLがその日、誰にも知られる事なく、静かに爆誕したのは確かだ。

 

今日も明日も明後日も、私はこの星降るお昼寝スペースと共にある。これを読むそこの君にも、幸福なお昼寝が在らんことを。

 

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おやすみなさい。

毎日3食寿司を食べたら労働の意味がわかった話

 

結論はタイトルのまんまなので忙しい人はここでこのページを閉じてほしい。

 

 

と前振りをしたものの、毎日寿司を食べる事を自分に課したら働くことの意味が25歳にしてようやくわかったのでちょっとここに書き出したいと思う。

 

 

 

 

コロナの影響で海外旅行の予定が2つも潰れ、インドア派の私もさすがにブチギレている2020年。とりあえずこんな状況下でも出来そうな「やりたい事リスト」を書き出して呟いたのが7月。

 

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そしてこの呟きに友人がリプを送ってきた。

 

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煽られてる。

 


いやおそらく本人は煽ったつもりはないのだろうが(結構長い付き合いなのでわかるぜ)、とにかくこの呟きが私に火を付けた。


やってやろうじゃん???って事で思い立ったが吉日、次の日から1週間3食寿司を食べ続けるチャレンジ「寿司縛り」の日々がはじまった。

 

 


そもそもの話になるが、私は寿司が大好物である。普段の食は細めだが、寿司だけは飲む様に食べる。子供の頃、小食な私に油断した両親が誕生日にカウンターでお好みを許したせいで遠慮のない小学生の私はあらゆる寿司を食べ、ラストスパートにウニ、トロ、アワビの最強ラップをを3〜4周刻み、ビビった親は光り物と巻物しか食べられないという、ちびまる子ちゃんの友蔵の様な事態に陥った事もあった(この話知らん人はググってくれ 神回だから)。

 


これだけ大好きなのだから、毎日食べたらそらメチャメチャ超ハッピー⭐︎と安直に考えていたのだが、この考えは甘かった。

 


まず、朝ごはん問題。

寿司は日持ちがしないため朝一の寿司の確保がめちゃくちゃ難しい。


「築地とか豊洲行けよ」


という正論が飛んできそうだが、毎日勤労に勤しむOLに朝の市場はキツかった。そんな早く起きれない。


「本気出せよ」


と怒られそうだが、私は食欲よりも圧倒的に睡眠欲が強い。ご飯のために早起きする事を継続し続けたらおそらく死ぬ。


いや死ぬってのはさすがに盛ったとしても、めちゃくちゃ不機嫌になってしまうのは不可避。もうスニッカーズ食べる前みたいになってしまうのに寿司しか食えないのだからどうしようもない。多分ムカつく上司のつむじをおもっくそグーで殴ってしまう。コレはガチ。盛ってない。


というかギャランティも発生しない自発的チャレンジでそこまでしたくはない。という事でこの週は毎朝コンビニで買ったおいなりさん(寿司という事にしてくれ頼む)を食べていた。

 


昼食や夜ご飯は会社の近くに美味しいと評判の寿司屋があったため、そこに行こうとおもっていた。しかし、このチャレンジを始めた週は繁忙期でゆっくり外でランチキメる事が出来ず、夜もいつ帰れるかわからない状況のため泣く泣く朝通勤前にちよだ寿司で買ったパック寿司を食べる事になった。

 


〜2020年の気づき〜

なにか挑戦を始めるときはタイミングを見極めよう!

 


この辺りからだいぶ雲行きが怪しかった。

 


まず全然ハッピー⭐︎じゃない。本当なら毎日毎食好物を食べて幸福度バシバシ上げてくつもりだったのに。なんだハッピー⭐︎て。頭お花畑だった自分をブン殴りたくなってくる。


もちろんパック寿司だって普通に美味しいのだが、いかんせん味気がない。皿に持ったところで微妙。ヤマザキ春のパン祭りの白い汎用性バリ高の皿も流石に寿司は想定していない様で、全然マッチしない。

 

やはり寿司はデッケェ下駄みたいな木の板の上か、四角い地味な皿の上でないと美味しそうに見えないのだ。

あいにくそんな皿家にないので、仕方なく回転寿司風にしてみようと小さめの丸皿に2つずつ盛ったら洗い物がバカ増えて母親にエライ怒られた。もっともである。


そんなこんなでおいなりさんとパック寿司を食べ続け、寿司のハイパーインフレを起こし新鮮な感動は消え失せ、酢飯が酸っぱいことにさえイライラしだした頃、更なる試練に襲われた。

 


食あたりである。

 


この件に関して、おいなりさんやパック寿司は全く悪くない。私の管理が悪かったのだ。


寿司は会社からの帰りに次の日のランチ用のパック寿司をお持ち帰りしており、一応夏場なのを加味してかんぴょう巻きをチョイスしてたのだが、生物じゃなくても夏場の寿司はダメだったらしい。

 

 

 


突然だがウォータースライダー、乗ったことあるだろうか。場所にもよるが、サマーランドのウォータースライダーは大人でも怖いくらい高さがあり、トンネル状になったデッカいパイプからは常に誰かの悲鳴が聞こえる。夏のスプラッシュウォーターアトラクション。

 


腸がそうなった。

大腸がサマランのウォータースライダー。

 


お下品にならない様最善を尽くして比喩していくが、もう寿司だったイデアたちがウォーターになって私のバディをスライドしていく。大声で叫びたいところだが、正味声すらでない。


幾度となくお腹をぶっ壊してきた私だが、三本の指に入るキツさだった。


なんで幸せになるための寿司縛りでこんな思いをしなければならないのだろう。会社で血便を拭きながら人生の難しさを考えた。


そんなこんなでアンハッピーに終わった寿司縛りの日々だったが、一つ気づきを得る事ができた。

 

 
人は何のために働くのか

それは生きるため

腹を満たすため

 


もちろん生きるためには衣食住全て必要だが、その中でも食事はずば抜けて大事だという事に気がついた。


「は?今更なに言ってんの?」


と思うだろうが、私はこれまでこの当たり前過ぎる事実を実感した事がなかった。

というのも都内実家暮らしのクソゆとりとして生きてきた為、この25年間、1週間三食自分のメシを自分で用意した事がなかったのだ。

 

 

 

は、はずかしーーーーーーーーーーー

 

 

 

自立力ゼロ。赤ちゃんならともかくOLでこれはきっちい。社会が産んだ可哀想な最悪のバブちゃん。でもこれが私のリアル。マジで甘っちゃんちゃんのクソアマちゃん。


恥じらいの気持ちが高まりすぎて自分の墓石を探しに険しい谷に降りていきたい気持ちだが一度話を戻す。

 

25年間、遊んで暮らしてもあくせく働いても、いつ何時エブリデイお家があって服があって、なによりホカホカご飯が私と共にあった。

 

だから働く意味が全く理解出来ていなかった。私にとって労働は日本人として課せられた義務だから仕方なくもう本当嫌だけどしょーがなくやるものであり「本当は魔法少女になりたかったのに」と毎日ぶつくさ文句を言いながらパソコンと向き合っていた。


それがいざ身銭を切って日々の食事を考える様になって、考えが変わった。

生きるためにはお金が必要で、お金は稼がないといけなくて、稼がないとご飯は買えないのだ。

 

既に自立してる人からしたら舌打ちしながらフォロー外したくなるくらい甘ったれな感想なのは重々承知だが、私個人としては結構衝撃的な気付きだった。


もちろん例外はあるだろうし、これから更に成長していくと、自分のためだけではなく誰かのために働くようになるのだろう。いやぁなんと出遅れているのだ私の人生と精神。10代でデキ婚した地元のヤンキーの方が私よりも優れた人間であることこの上ないQ.E.D

 

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あぁ、この消費期限切れのかんぴょう巻きも、私にとっては意味があったのだ。

 


いいないいな。人間っていいな。

 


遅ればせながら大切な事に気付けたのだから血便くらい安いもんである。

 

辛い尻に薬を1人塗りながら、また一つ大人になるということ知った夏であった。